古事記と日本書紀の違い― 八百万の神々は、どこに書かれているのか ―

当サイトの守護神図鑑や神社ページで語られる神様たちの物語は、 そのほとんどが二冊の古い本にもとづいています。『古事記』と『日本書紀』。 あわせて記紀(きき)と呼ばれる本です。
この二冊は、八年しか違わない時期に、同じ国の同じ朝廷が作らせました。 それなのに、書かれている内容も、文章の書き方も、目指したものもまるで違います。 その違いを知ると、神様の物語の読み方が少し変わります。
六つの項目で比べる
成立
古事記712年(和銅5年)
日本書紀720年(養老4年)
編纂
古事記太安万侶が編纂。稗田阿礼が誦習した内容を書き取ったと伝えられる
日本書紀舎人親王を中心に編纂され、元正天皇に奏上された
巻数
古事記上・中・下の3巻
日本書紀30巻と、系図1巻
文体
古事記変体漢文(日本語の語順や言い回しを漢字で書いたもの)
日本書紀純漢文(当時の東アジアの公用文体)
扱う時代
古事記天地のはじまりから推古天皇の代まで
日本書紀神代から持統天皇まで
目的
古事記天皇による国土の支配と皇位継承の正統性を、国内に示すため
日本書紀唐や新羅など東アジアに通用する正史を編むため
いちばん大きな違いは「誰に読ませるか」
六つの違いは、たどっていくと一つのことに行き着きます。読ませたい相手が違ったのです。
古事記は、国内に向けた本です。天皇がこの国を治めることの由来を、 日本語の語りのまま書き留めようとしました。だから文体は変体漢文—— 漢字で書いてはいるけれど、読み下せば日本語の語り口が残ります。 神々が笑い、怒り、泣く場面が生き生きと描かれているのは、そのためです。
日本書紀は、外に向けた本です。当時の東アジアで通用する正式な歴史書として、 唐や新羅の人が読んでも分かる純漢文で書かれました。年月日が記され、 「一書(あるふみ)に曰く」として異なる伝承まで併記されています。 物語としての面白さより、記録としての正確さを選んだ本です。
ひとことで言えば、古事記は「物語」、日本書紀は「記録」。 同じ出来事を、語り部の声で書いたのが古事記、公文書として書いたのが日本書紀です。
なぜ同じ神様の名前が二通りあるのか
神社を訪ねると、同じ神様なのに社によって書き方が違うことがあります。 八坂神社では素戔嗚尊、 氷川神社では須佐之男命。 これは別の神様ではなく、古事記の表記と日本書紀の表記の違いです。
当時の日本語には文字がありませんでした。神様の名前は「スサノオ」という音として 伝わっていて、それを漢字でどう書くかは、書く人が決めるしかなかったのです。 日本語の音を優先した古事記と、漢文として整えた日本書紀とで、 当てる漢字が変わりました。
須佐之男命/素戔嗚尊
八岐大蛇を退治した神。八坂神社・氷川神社のご祭神です。
天照大御神/天照大神
太陽の女神。伊勢神宮 内宮のご祭神です。
木花之佐久夜毘売/木花開耶姫
富士山の女神。浅間神社のご祭神です。
波邇夜須毘売神/埴山姫
土の女神。榛名神社にお祀りされています。
大国主命/大己貴命
国づくりの神。出雲大社のご祭神です。
当サイトの守護神図鑑では、読みやすさを優先して古事記の表記を基本にしつつ、 広く知られている表記があるときはそちらを併記しています。
八百万の神とは、どこから来た言葉か
八百万(やおよろず)とは、 八百万柱きっかりという意味ではありません。古い日本語で「八」は、 数えきれないほど多いことを表す数でした。八重桜、八岐大蛇、八咫鏡—— どれも「たくさん」の八です。
記紀の神話には、天地のはじまりに現れた神から、山・川・草木・ そして火や土といった自然そのものを司る神まで、数えきれない神々が登場します。 太陽にも神がいれば、かまどの火にも、川の流れにも神がいる。 この「あらゆるものに神が宿る」という感覚こそが、記紀が伝えた最大のものであり、 当サイトの名前の由来でもあります。
姓名判断と記紀は、直接の関係はありません
正直にお伝えしておきます。姓名判断そのものは、古事記や日本書紀に 由来する占いではありません。画数で吉凶を読む姓名判断が広まったのは、 大正から昭和にかけてのことです。記紀が書かれた奈良時代とは、 千二百年の開きがあります。
それでも当サイトが記紀の神々を扱っているのは、 画数から導かれる五行の性質に、日本の神々の物語を重ねて読むと、 自分の性質が腑に落ちやすくなるからです。 これは伝統的な流派の手法ではなく、八百万の杜が独自に組み立てた読み方です。 そのことは姓名判断は当たるのかの記事でも、はっきり書いています。
よくある質問
Q. 古事記と日本書紀、どちらが古いですか?
A. 古事記が712年、日本書紀が720年の成立です。古事記のほうが8年早く、現存する日本最古の書物とされています。
Q. どちらを読めばいいですか?
A. 神話として物語を楽しみたいなら古事記です。文学的で、神様たちが人間くさく描かれています。歴史の記録として日付や異説まで確かめたいなら日本書紀です。日本書紀は「一書に曰く」として別の伝承も併記しているのが特徴です。
Q. なぜ同じ神様の名前が二通りあるのですか?
A. 古事記と日本書紀で漢字の当て方が違うためです。古事記は日本語の音に漢字を当て、日本書紀は漢文として読めるように整えました。須佐之男命(古事記)と素戔嗚尊(日本書紀)は、同じ神様の別の書き方です。
Q. 二つをまとめて何と呼びますか?
A. 記紀(きき)と呼びます。古事記の「記」と日本書紀の「紀」を取った呼び方です。